黒い鷲


きっかけは何だったろうか、ある時期から6年間ほど
室野井洋子さんという舞踊家の月に一度のワークショップに通っていた。
踊り、というより踊る以前の身体のあり方、だろうか。
編集者でもあった室野井さんの、ワークショップで静かに語る、その言葉の使い方にも
目から鱗が落ちるような思いで、自分にとって本当に刺激を受ける貴重な時間となっていた。

ワークショップとは別に、自主的に数人が集う機会が何度かあった。
室野井さんが、私の持参してたバルバラのCDの中から
「最初は無音で動くので、5分経ったらこの曲をかけてください」と
”黒い鷲” という曲を指した。
静かな動きに見とれながらも、あと2分、あと1分、と時計の針を気にしていた。
そのとき、背中から、折りたたまれた羽根があらわれた。
崖の上にとまり、飛び立つときを静かに待っている。まさに、5分経過。
あんまり驚いて緊張して、スイッチを入れるのが数秒遅れてしまったけれど
今にも広がりそうな羽根が、飛び立つそのときを待っていてくれた。
曲が始まり、室野井さんはゆったりと空を舞っていた。
はるか下の景色までが見えるように感じられた。

昨年の夏、家にいたときにメールで訃報が届いた。
ちょうど浦邊さんが来てるときだった、彼も室野井さんとはとても古くからの付き合いだった。
パソコンの前で、二人でしばらく黙りこんでしまった。

どちらからともなく、献杯しよう、と日本酒を買ってきた。
最初に彼が、ジミヘンドリクスの”foxy lady"をかけた。
彼にとっては、室野井さんといえばこの曲、なんだそうだ。
そのあと、バルバラの”黒い鷲”(L'Aigle noir) をかけた。

狐、鷲。偶然の一致ではないだろう、確かに室野井さんにはどこか人間ではないような、
野生の生き物のような、そんな印象があった。

この曲を聴くと、あの時の室野井さんの踊る姿が蘇ってくる。

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by gurujia | 2018-05-09 21:17 | 寝言