制作ノート・その2


    生まれたかたちは 空間に 浮かび 沈み 息づき うたう
    かるくなった私のからだは うたの行方を追って ふくらみ ひるがえり



これは、個展のフライヤーを作った時に書いたもの。
どんな空間の中で、どんな身体でそこに立つのか、、願いが先走っていた文章。

生まれたかたち..という言葉を使ったものの、
できるだけ考えるよりも先に手を動かそうと日々作り続けて、
今頃になって、まだ未完成のそれをしげしげと眺めると、かたちが生まれた、というよりは
かたちをなくす為に作っているのではないか...そんな風に思えてくる。


昨年の個展で、DMの写真にもなった濃紺の船の作品は、壊れて使えなくなった
アルト・サックスをいただいて、それを作り替えたものだった。
ヤスリがけと色塗りを何度も繰り返す中で、音を出す為に生まれてきたサックスの
あまりにも完璧な考え抜かれたかたち、の有り様に圧倒される思いだった。
作り替えるのなら、その意味をわかった上で、さらにそれを凌駕するようなものを。
そのかたちが、新しい在り方で生きてもらえるように、力を尽くすこと...
私がこれまで作ってきた ”かたちあるもの” は、かたちでありながら、架空のかたちだった。
サックスは、本当に、血肉を持った かたち だった。

サックスを船に作り替えた、あれ以来、かたちを作る、ことへの意識も変化しただろう。
作る時間と同じくらいの比重で、ライヴの時間、終われば消えてなくなる時間を
過ごしてきたから、その影響も大きいだろう。


今回のDM写真にもなった作品は、ここ15年程、フェルト制作の為にシルクの薄布を
集め続けて大切に使っていた、それを細かく切り刻んで、ふんだんに使っている。

大切にし過ぎてゆっくりとしか進めなかったことを、何かへの思いを捨てて
速度をあげようとしている。昨年末に、20歳から愛用していたミシンが壊れてしまい
工業用ミシンを使うことになったのも、身体に直接働きかけた、速度感覚の変化だった。

出来つつあるごく薄いテキスタイルを、部屋にひろげると、
漁師が投げ網して、たくさんの魚たちが網にかかって引き上げられて光っている光景が
浮かんでくる。ざわめく音も聴こえてくる。
そして、この網の向こうには何があるのか、どんな風が吹くのか。

空間と、そこでのパフォーマンスへの手がかりを探りながら、あと3週間。


制作ノート・その2_b0114860_1825537.jpg昨年の個展DM「透明な果実」



制作ノート・その2_b0114860_1824663.jpg今年の個展DM「逆光に宙返り」


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